(02.05.29) 会社が休みだったので、うだうだと浅い眠りを続けていたせいか、 アキラとヒカルが出てくる夢を見ました。 なんでこんな真面目な夢を・・・と思うほどに、 せっかくアキラとヒカルが出てきたのに萌えどころも ない夢です(爆) 真面目な夢だったけれど、私にとっての アキヒカとはこういうもの というのを示すにはちょうど良い内容かな、と 思ったりしたので文章にしてみました。 これは、私の目で見るアキラとヒカルです。 こういう二人が好きです。 小説といえるほどの文章力でもないし、 ヤマ山もオチも萌えもないです。 ギャグもないです。 興味のある方、短いですので暇つぶしにどうぞご覧下さいませ。

「神の一手、か」
「え?」
 対局中にヒカルが集中をとくなど、まず無いことだ。
 アキラも対局中は周りが目に入らない方だが、今まで一度も見たことのない対局中に話しかけるというヒカルに、思わず次に打とうと思っていた一手を止める。
「神の一手ってさ、どういうこというのかな、って思って。
 『今のは神の一手だった!』って判断するのはオレ?
 それとも対局相手?あと・・・棋譜見た人とか?」
 完全にヒカルの思考は対局から離れてしまっている。
 なんの意図があってのことだろう、と訝しながらもアキラはとりあえず止めていた一手を打ってから答えた。
「・・・ボクは、判断するのは自分だと思う」
 その一言の間に、ヒカルは一手打ってきた。
 ヒカルとアキラがここ、塔矢行洋が経営する碁会所で一緒に打つようになってから数ヶ月がたつ。
 互いの手合いの検討をする時もあれば、十秒碁や一色碁で勝負する時もある。
 今日は、久しぶりに真剣な互先だったのだが。
「・・・そうだな、オレもそう思う。
 神様ってやっぱり碁の神様なのかな。
 すっげえ強いんだろうな。
 自分が神様だと思えるほどの一手ってどんなんだろうな・・・」
「ボクは、それを見つけるために碁を打ち続けていくよ。
 まさに今この一瞬、神になったと思えるほどの対局に出会うために」
 さらに一手進める。
 いつの日か自分が神の一手を極める時に、向かい合っている相手はヒカルが良い、とアキラは思った。彼と作り進めていった盤面で、神の一手といえる石を碁盤に打ち付ける時、どんなことを考えるだろうか。
 同時に、もしも進藤ヒカルが神の一手を放つ時がくるならば、その時の相手は自分が良い、という思いが胸の奥に存在することに気付いて、アキラは複雑な気持ちになった。
「塔矢先生も極めてないんだもんなあ。
 神の一手を打つためにはさあ、相手も重要だよな。
 神の一手を打たなきゃならないほどの相手と戦わなきゃ」
 そう言いながら打ってきたヒカルの黒石を見た瞬間、アキラは思わず膝の上に乗せていた手を強く握りしめた。
(・・・そうか、だからか・・・)
 ヒカルが対局の集中をといた理由にやっとアキラは気付いた。
 このまま打ち続けていく過程に必ず現れるであろう形に、ヒカルはもう気付いている。自分よりもずっと早くに。
「オレ、まだ初段だけど絶対おまえに追いついて追い越して、おまえの目の前で神の一手を放ってやるからな」
 強い意志をこめてそう言ったヒカルをアキラは見つめた。
「ボクもいつの日かキミに、ボクの神の一手を見せてやる」
 アキラは、終局へと向かう白石を置いた。
 パチ、パチ、パチ、と石を置く音だけがしばらくの間静かに響いた。
 ヒカルが白石を一つ取った。
 アキラが黒石を一つ取る。
 ヒカルがまた、アゲハマを取った。
 アキラももう一つ。
 さらにヒカルがまた一つ、アキラも一つ。
 それから、ヒカルがゆっくりと黒石を置いて、また一つ白石を取った。
 その場所にある白石を取るのは二度目だ。
「三コウだな」
 アキラの言葉にヒカルが嬉しそうに「ああ」とうなずいた。
「すげえ、オレ初めて!」
 無邪気に喜ぶヒカルにアキラは苦笑する。
 ヒカルは碁のプロになるほどの人間なのに碁にまつわる話を知らないことが多すぎるのだ。
 最初のうちはその無知さ加減に怒っていたアキラだか、最近はすっかりあきらめてしまっている。
「三コウって縁起が悪いと言われているんだよ」
「え?そうなのか?」
「織田信長が本能寺の変の前夜に三コウを見たって説があってね、縁起が悪いって言われているんだ。まあ、数千局に一回の割合で現れるから逆にその珍しさに最近は喜ぶ人の方が多いそうだけど」
 三コウとは互いに石を取り続けた結果、もとの形に戻ってしまうことを言う。
 両者共にその石が譲れない場合、石の取り合いを永久に繰り返すしかない。
 こうなった場合、ルールでその勝負は無勝負となるのだ。
「ふ〜ん。まあ、縁起なんてどうでもいいや。
 オレさあ、途中から絶対三コウになるって気付いてドキドキした」
「・・・そうだな」
 無邪気にもう一度自分で三コウを一周して遊ぶヒカルを見ながら、無勝負となったけれどこの対局はヒカルの勝ちだな、とアキラは思った。
 自分よりも数手先を読み、自分より早く三コウに気付いていた。その力を恐ろしいと思い、また、嬉しいとも思ってしまう。
「数千局に一回か・・・。
 オレ、塔矢との対局でまだ何回も見れるんだろうな」
 これから先、何百、何千、何万と対局を繰り返していくから。
「そうだな。・・・次は負けない」
「え?」
 飽きずに三コウの並びを繰り返していたヒカルが顔をあげた。
「三コウって無勝負だろ?」
「ああ、うん。
 なんでもない、今のは独り言」
 じゃあもう一局打つか、とヒカルは石を片付け始めた。
 アキラも自分が並べていた白石を碁笥にしまった。
 自分が頂点に立つための最大の壁が、登りつめるためには欠くことの出来ないものだという自分とヒカルの関係をあらためて感じながら。

 神の一手を打たねば勝てないほどの相手。
 互いに、相手がそんな存在になると信じて進んでいく。

 神の一手を極めるために。


















あとがき。 どんな夢を見たんだおまえ、 と言われそうなのですが。 アキラとヒカルが対局していて三コウになるという 夢です(そのまんま) 初めてのアキヒカ夢だったのに・・・。 なんでそんな夢を見たかというと、 たぶん十段戦予選で依田名人と彦坂九段の対戦で 三コウが出たという記事を読んだからでしょうね。 三コウになった棋譜が載ってて、それを見ながら (ここの白とって黒とって白とってこことここと・・・・おお!三コウだ!) などと真剣に熟読してしまったのが原因かと。 碁はまったく素人な私ですが、GBAヒカルの碁を自力でクリア できるぐらいには碁を覚えましたので、新聞とかに ちょっと対局のこととか書いてあると、けっこう理解出来るんですよね。 わかると面白いです、碁。 文章中の三コウは、一応自分でパソコンの碁のソフトに 三コウを作ってみて、自分で石を取りながら 数を数えて書いてみましたが・・・間違えていたら ご指摘ください・・・。 で、三コウって不思議だと思ったんですよ。 数千局に一局の確率ってすごくないですか? 碁って十九路って限られた盤面なのに、作り出される棋譜は まさに無限といえるのでしょうね、きっと。 ドレミファソラシドしかない音符で無限の音楽が 作られていくのに似ているなあとか思ったり。 「碁盤には九つの星があるだろ?ここ 宇宙なんだ」 とヒカルが言っていたのを思い出します。 宇宙を創っていく 神様になる ヒカルはきっとこの先どんなに強くなっていっても 無限の宇宙の創り手でいるんでしょうね。 そしてアキラも。 私は基本的にはノーマル&原作公認カップル推奨派ですが、 アキヒカは好きです。はい。 アキヒカラブラブなサイト様にもお邪魔したりしてますが やっぱり最終的には原作のスタンスの二人が好きだな、と。 しょっちゅうケンカしているのに、ヒカルの悪口を言われると 怒るアキラはまさに萌え(笑) 身近に、こんなライバルなんていないです。 というか、こんなに燃えているものがないです。 だから、よけいにアキラとヒカルの関係が好きなんでしょうね、私。 そんなわけで、私なりのアキヒカ短編でした。
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